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神田雑学大学講演抄録 第370回 平成19年8月3日

世界中の石油探査40年

―東シナ海ガス田開発問題の理解のために―

講師 猪間 明俊 

元石油資源開発株式会社取締役


目 次

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猪間明俊さんプロフィール

1.はじめに

2.石油開発―巨大なリスク産業

3.東シナ海ガス田開発問題

4.質疑応答



猪間明俊さんプロフィール

講師 猪間明俊さんの顔写真 1937年生まれ。東京都出身。
1960年東京教育大学理学部地学科卒。地質学、古生物学専攻、理学博士。

卒業後すぐ石油資源開発株式会社に入社。一貫して探鉱、開発事業に従事。
海外駐在4回計7年半。仕事で訪れた国20カ国を数える。
2005年東シナ海ガス田開発問題が起きた際には、激昂する日本世論を沈静化すべく、専門家として積極的に発言を行なった。

現在は各種NPO活動に参画悠々自適の生活。
著書に「石油開発の技術」「やぶにらみ油探鉱論」「アンデス越えて」。訳書「燃える水」「中国石油工業史」

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1.はじめに

 今日はみなさんご存知の東シナ海ガス田開発問題についての話を中心にしようと思います。日本と中国の経済水域の中間線付近で中国が勝手に井戸を掘り、日本側の資源を抜き取っているということが大騒ぎになりまして、マスコミだけでなく一般の国民まで巻き込んで喧々囂々中国非難の一色でしたね。あれほど大騒ぎだったのが近頃さっぱりニュースにも出てこなくなり、あの話はどうなったのかとお感じになっている方も多いと思います。日本人は飽きっぽい性格なのでしょうか、今では忘れられたようになっていますが、情勢はそのころとちっとも変っていないのです。相変わらず中国は開発をやっていまして、日本側から資源を抜いていることは間違いはない。それに対して日本は手をこまねいている感じがあるわけですが、日中間の大きな問題であることには変りはないのであります。

 わたしはそれに対して、40年石油開発をやってきた立場から、日本政府の言っていることはなにかおかしいのではないか、という立場で論陣に参加いたしましたが、それのせいもあって世論も沈静化してきたし、政府の方も頭を冷やしてきたのかなと思っています。その話を後半30分くらいのところでしてみたいと思います。

 そういう大騒ぎになったのはどうしてなのでしょうか。
私の考えでは、日本では石油開発業というのは大変マイナーな産業なんです。石油開発業に関わっている人間というのはそれこそお茶くみの女の子から皆入れてもせいぜい4000人から5000人しかいない、そういうマイナーな産業なのです。ですから石油開発というものに対して、政府もマスコミも一般の国民も知識がないのです。どういう産業であるかということすら知らないということからあんな大騒ぎになったんだろうと考えますので、後半の東シナ海の問題を理解するために、石油開発とはどういうものであるかということをまずお話したいと思います。特にそれが大変なリスク産業であるということが認識されていないことが騒ぎの原因になっていると思うので、そのことに重点をおいて、「石油開発の仕事とは」という話を前半にいたしたいと思います。

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2.石油開発―巨大なリスク産業

講演会場の写真

 リスクという言葉を辞書で引きますと、危険とかあるいは損害の恐れとか言う訳語が出ております。しかし現実の世界では危険でないものはないのでありまして、例えば飛行機に乗るのも自動車に乗るのにもリスクはあるのですし、それこそ道を歩くのにだってリスクはあるのです。例えば原発なんて非常にリスクが高いといわれているわけですが、これは実は損害が起きた時に非常にそれが大きいというリスクはあるんだけれども、そのリスクが発生する確率は非常に低いというものです。フェイルセーフを何重にもかけていますから、損害が起きることは殆んどないのです。この間の柏崎の地震だって、世界中でチェルノブイリの事故と同じような事故が起きたんじゃないかと誤解されているらしいんですが、日本の原発はびくともしなかったわけです。これからまた詳しく調べるでしょうが、いずれにしても放射能が人体にもの凄い悪影響を与えるほど出ていたという事実はなかったわけです。ですからリスクを考えるときは、損害が起きた時の損害の大きさと損害が発生する確率の両方を考えなくてはならないわけですね。リスクがあることを全て避けようとしたら、人生一日だって生きていけないと私は思います。

 じゃあ石油産業のリスクとはなんでしょうか。石油産業では失敗するとどれだけ大きな損害になるのかということ、それからどういうリスク、損害があるのかということ、そして失敗する確率とはいったいどのくらいのものなんだろう、ということをまずお話して見たいと思います。

 まず巨大な投資額が必要だということです。具体的な数字が分かり易いでしょうから、2001年から2005年までの5年間でのメジャー4社の合計の投資金額をお話します。昔はメジャーというとセブンシスターズといって7つあったのですが、いまは4つなんです。リスクが大きいものですから皆危険を回避する為に合併してしまいました。この4大メジャー合計でいわいる探鉱開発費というものに5年間に2000億ドル投じています。25兆円です。この中にはすでに試掘が終わって、見つけた油田を開発して実際に石油を採るということへの投資も含まれています。新しく権益を獲得する、そして獲得したところで本当に石油が出るかどうか試掘してみる、そういうお金は探鉱費と言っているのですが、その探鉱費と権益取得費と合わせますとこの2000億ドルのうちの550億ドルになります。6兆円強ですね。私がおりました石油資源開発という会社は日本ではメジャーと言われていますけれど、世界に出て行くと60位から70位くらいの石油開発会社だと思うのですが、ここでは同じ5年間に17億ドル、探鉱開発費を投じています。国内探鉱だけに絞りましても5年間で2.7億ドルです。だいたい300億円ですから、1年に国内探鉱だけでも60億円くらい使っているということになるのです。

 それだけ大きな投資ですが、それは井戸が失敗して石油が発見されないと、まるまるどぶへ棄てたのと同じことになってしまうのです。大変な損失になるのです。失敗する確率はどのくらいかと言いますと、これは成功率の反対になるのですが、試掘成功率というのは世界的に言われている数字は7%から15%と言われています。つまり7本ないし15本に一本くらいしか当たらないということです。私がいた会社は昭和30年、1955年に出来たのですが、私が会社を辞めた2000年までの間、試掘と称するものを725坑掘っています。この中で成功した井戸は189あります。かなりの成功率ですがこれでも26%なんです。これは成功といっても実は掘った井戸から一応石油かガスが出てきて成功という分類にしただけで、実際は油田、ガス田として成立するためにはそれが拡がりを持っていないといけないわけですから、次にもう一本掘る、そして失敗したとします。すると最初に出た井戸は成功に分類したけれど、開発事業という点では失敗と同じことになるのです。そういう風に考えますと実際に新しく石油・ガスが発見されたというのは52坑しかないのです。ですから実際は7%の成功率になります。しかも新しい地域で見つけてもそれが実際に油田・ガス田になるとは限らない。実際に稼行油田あるいは稼行ガス田になったというのは全部で34坑しかないんですね。見つけたところで確認のためまた掘った井戸なども725坑と成功井の189坑の中には入っていますから、そういうものを除いて純粋に新しい場所で掘って稼行油田、稼行ガス田になったというのはどのくらいあるかというと、588坑中34坑で油、ガス田が見つかっています。これだと油田発見率は6%くらいになる。

 ところが34油田、ガス田として開発しましたけれど、採ってみるとほんのわずかでゴミみたいな量しか出なかったというケースもあるわけですね。全体で5万kl以下のものを省いてしまいますと26しか実はないんです。ですから588坑掘って26坑しかまとも油・ガス田にぶつからなかったということで、これは4%になります。世界的に言っても試掘井の数に対して本当の油田・ガス田になる発見率というのはやっぱり3%から4%と言われているのです。残りの96%は失敗なんですね。ですからさっき言いました560億ドル、メジャーが投資をしてもその500億ドル以上は失敗で、どぶに棄てるということになるわけです。そのくらいリスクが大きいものなんです。こういう感覚がないとちょっと石油開発の問題を論じるというわけにはいかないと思います。

 そのほかに石油開発におけるリスクには例えば埋蔵量の問題、即ち開発したけれど採っているうちにどんどんなくなってきて、思ったよりも量が少なかったというリスクもあるわけです。
 それから発見から生産までの時間がもの凄く長いということもあります。いちいち井戸を掘らなければならないし、開発施設も作らなくてはいけないし、それの輸送のためのパイプラインを引かなければ駄目とか色々ありまして、せっかく見つけても大きな油田ですと生産が始まるまでに6年7年かかってしまうのです。その間にインフレがあって予想以上に開発費がかかってしまうなどという大変な不確実性があるわけです。生産を始めても油価の変動があります。最近1バレル60ドル70ドルといっていますが、私が現役でやっていた頃は10ドルとか20ドルでした。ほんの数ヶ月から1年くらいの間に5倍6倍になるくらい油価の変動はありますし、油価の上昇を見込んで、儲かるつもりで開発したけれど、さっぱり油価が上らないから、採算割れで生産をせざるを得ないということもあるのです。

 そして政治リスクというものもあります。これは他の産業でも同じなんですが、このあいだサハリンで日本側が出資したガス田の権利を無理やりロシアにむしりとられましたね。ああいうことだってあるわけですし、アラブのあたりで開発なんてすると、あっという間に法律を変えられて没収されてしまったり、当初の契約ではチャンとなっていても後から政治的に変えられてしまうケースがあります。あるいはスーダンみたいに開発はしたけれども内戦が始まって、とても仕事どころではなくなって引き上げてくるというようなこともあるのです。そういうのは政治リスクですね。

 そのほかに石油自体の資源としてのリスクというものがあります。これは地下資源としての石油の特性ということからお話をしたいと思いますが、石炭や金などの他の地下資源と決定的に違うところは、これは流体であるということなんです。流体資源というのは地下水を利用するケース以外は石油ガスしかないと言っていいと思います。流体であるということにはメリットもあります。例えば輸送が簡単でバルブ一つで操作することが出来ますし、パイプをつなげれば圧力さえかけてやれば自分で流れていくのです。

 石油やガスは流体ですから露天掘りとか坑道堀というのは出来ないわけです。井戸を掘ってそこから吸い上げるほか採りようがない。つまりパイプを通じて生産するという特徴があるんですね。パイプを通じて生産するということは、メリットもあります。一つは地下非常に深いところから採取出来るということですね。ちなみに今一番深い稼行されている石油はだいたい5500mくらいから採っていますし、ガスの場合だと7000mくらいの深度から採っている井戸があります。こんな深いところから採れる地下資源というのは流体資源だけですね。石炭などの坑道堀で一番深いのは1000mくらいまでだと思います。 第二に海底下の油田も採掘が可能ですね。今水深1200mくらいの海底油田があります。例えばアメリカのガルフコーストやブラジルのカンポス沖がそうです。井戸を掘るだけですと水深3000mくらいの探鉱もやっております。学術調査が目的の場合は水深6000mくらいは井戸が掘れるようになっています。

 ただ石油のカテゴリーの中で例外的に露天掘り、坑道堀のできるものがあります。それはオイルサンドというもので、カナダなどでは露天掘りをしています。これは今のところ地上から150mくらいまでしか採算性がありません。
石油やガスは資源自体が地層の中で移動するわけです。だからパイプで生産出来るわけです。資源が地層の中で移動出来るということは、石油が出来た場所と貯まっている場所が違うということを意味するのです。これが石油が流体資源であることによる石油開発上の最大のリスクだと思いますね。なかなか当たらないというのはこのせいなのです。石油は出来るのにもの凄い時間がかかっているのです。だいたい何百万年という時間をかけなければ石油が形成されないのです。何百万年かかって出来て、それからまた現在に至るまで出来た油やガスはどんどん地層の中を自分で動いていくのです。これは後ほど詳しくお話します。

 そこでどうして石油の鉱床が出来るのかという話をしますが、まず根源物質がないと駄目ですね。皆様もご存知にように石油は生物起源と言われています。無生物起源だという学者もいますし、地球が出来た時から地下深部にあって、それが漏れてくるんだとか、いろいろ無機成因説を唱える化学者もいるんですが、石油鉱業に関わっている人間でそんな無機成因説を信じている人間はおらず、生物起源説をとっています。それが何から出来るのかを推測させるデータが下の表にありますので見てください。

カスピ海の生物生産量とバイオマスを示す表と、地球上の地域別生物生産量を示す表

左の表の右側のバイオマスというのはある時点でどんな生物がどれだけの重量あるかということですが、これだと底生生物や魚は非常に多いですね。一方左側の生物の生成量という見方で見るとバクテリアだとかプランクトンだとかが圧倒的に多いですね。つまり前者のような大きな生物は寿命が長く一年とか数年とか生きるのに対して、微生物は煩雑に世代交代をくり返し、一部は大きな生物の餌になったりして消費されるものの、多くの遺骸を残すことになります。こういう有機物が石油の元になっているんではないかと言われていました。ところが最近陸生の地層からも結構、油やガスが見つかるようになってきたので色々検討してみますと、右側の表で見られるように、陸域では生物生成量が多いのは森林で、単位面積当たりでいうと大陸棚に匹敵します。ですから陸生の森林起源のものも油やガスの元になっているんじゃないかと考えられるようになりました。こういう根源物質が堆積物の中に含まれて、これがずっと保存されていないといけない。酸化されてしまうと炭酸ガスと水、あるいは炭素になってしまいますから、これが閉じ込められなければいけない。そしてたぶんそれは水のなかでしょうが、あまり酸素が供給されるところでは困る。つまりあまり水の撹乱のないところに堆積しなければなりません。ですから細かい泥と一緒に溜まったものが根源になっているのではないかと思われます。これは思うだけです。実際は何百万年とか何千万年前のことですから分からないんです。

 この上に地層がどんどん溜まりますと地下に埋もれていくわけですから、地熱を受けて変化して行きます。だいたい50度を超えると堆積した有機物は炭化水素に変わって行くといわれています。下の左図を見ていただくと分かるのですが、地温が50度を超えると重質の炭化水素が多くなっていきます。100度を超えますと重質炭化水素が分解されて軽質炭化水素に変っていきます。
第3図 地温と炭化水素の生成・変質との関係 さらに温度が高くなるとどんどん分解してメタンになっていく。だいたい160度以上になるともう殆んどがガスになってしまう。ですからこの辺の地温になるほどまで深く埋もれた地層には石油はないということになります。

 根源岩のなかに生成された石油やガスはそのままでは取り出せません。非常に細粒の地層で、しかも上に地層が重なって本当に締まった岩石になってしまうわけですから、そんなものの中では簡単に油は移動出来ません。ある時点でそれから油やガスを溜めておくことが出来、かつその中を油やガスが比較的簡単に移動できる、貯留岩というものに移っていかなくてはいけません。貯留岩というのは石油を溜めることが出来るような孔隙を有する岩、例えば砂だとか礫だとかが固まった砂岩、礫岩、それから火山噴出物、溶岩、石灰岩とくに珊瑚礁なんかで出来た孔ぼこが沢山ある岩です。この貯留岩の孔隙には下図の様に3つの種類があります。

貯留岩の孔隙タイプ比較図

 ひとつは粒間孔隙といってこれは砂岩や礫岩の粒々間にある孔です。それから2番目に地層が形成されるときに凄い圧力を受けて岩に割れ目の隙間が出来てしまうタイプの、割れ目孔隙というタイプがあります。そして3番目が石灰岩や貝殻などの堆積した岩の場合で、これは初めから貝殻やサンゴなどには空間の元になる凸凹や孔がありますから、堆積し岩になっても初めからの孔がある、初生的孔隙というタイプです。こういう孔隙に石油やガスは移っていかなくてはなりません。これを石油やガスの第一次移動といっているのですが、実はこれがどうして起こるのかはよく分からないのです。現在のところ根源岩の中で炭化水素が形成されて来ると非常に圧力が高くなってきて、そのために根源岩に極く小さな割れ目が出来て、その割れ目を通じて炭化水素が移動して行くのだという説がまことしやかに信じられているのですが本当かどうか分からないんです。このこともリスクの原因なんでしょうがね。

 ともかく石油やガスが貯留岩に入ったと思ってください。入りますと地下深部は圧力が高くて地表に近い方が圧力が低いですから、どんどん軽い炭化水素は上に上がっていって、もし貯留岩が地表に出ていたら、炭化水素は外に逃げてしまいます。ですから上にシールするような岩石がないと溜まってくれないのです。それも緻密で油やガスを通さないような岩石がないと止まっていないのです。ところがせっかく貯留岩があって、そこにシールする岩、キャップロック(帽岩)と言っていますが、それが重なっていても、それが傾斜していてそのまま地表に出ていますとこれはやっぱりそれに沿って石油やガスは出て行ってしまいますね。ですから何が必要かというと、石油やガスを閉じ込めておくような地質構造がないと溜まらないと言うことになります。その溜まる構造と言うのはトラップと言われる構造です。トラップにも色々な構造がありますが代表的なのが、下図で左側にあります背斜トラップですね、こういうボートを伏せたような形をしているものを背斜トラップと呼んでいます。今世界のガス田の70%はこういう地層構造から出ているわけです。

第4図トラップのいろいろ 第5図トラップ内での流体の在り方

 この貯留岩の中での石油やガスの移動を第二次移動と言っています。これはもの凄い量が早い時間で動くのです。例えば一年に1m動くと考えてください。それだけ動いただけでも10万年で100km動いてしまうのです。さっき言いましたように石油が出来るためには何百万年という時間が必要なわけですよね。ですから第二次移動と言うのはそんなものに比べるともの凄く早いわけです。ですから石油やガスが生成されても、それらがどこに移って溜まっているかは簡単には分からないということになってしまいます。

 30年くらい前までの教科書では石油鉱床成立の要因として4つ、根源岩の存在、貯留岩の存在、キャップロックの存在、トラップの存在があれば溜まるんだということだったのですが、今お話したように地質構造の形成は今までの永い年月の間に形成されるわけで、それに対して第二次移動がもの凄いスピードで行なわれている、これ二つを考えて見ますと、構造が形成されるのと油やガスが動いてくるのと、ちょうどタイミングが合わないと石油やガスは溜まっているわけがないということで、タイミングということが石油・ガス鉱床成立の最も重要なファクターということになりました。

 下図を見てください。これは3つ図面がありますが時代と共に下から上にと地質構造が変っております。この図で言いますと根源岩がありその上に貯留岩がありその上にキャップロックがあるという単純なモデルを作ってあります。

第11図石油鉱床形成のタイミングの例(その1)  一番下は1000m以下に根源岩が埋もれたために右側のほうから油やガスが形成されて貯留岩のなかに入って、傾斜の上がっているほうに向かって移動して行って、そして背斜の頭に石油が溜まりだす状況が書いてあります。真ん中の絵はaの地層の上にbまでの地層が積み重なった状態ですが、丁度真ん中あたりにこぶが出来始めていますね。前の時代の地表面aの格好がこういう風に変化しまさに背斜になっているわけです。しかしその時点でも下の方の貯留岩自体は背斜を形成していません。そうするとせっかく形成され始めたB構造というものを通り越してどんどん油はA構造の方に油は溜まり続けてしまうのです。

 その後bの上に地層がたまってB構造もちゃんとした背斜になります。で下の貯留岩の形を見ても背斜になっているのですが、もうこんなに深く埋もれる頃には、根源岩から移動して行くべき炭化水素はもう出なくなっていて、せっかくB構造が出来たけれどもそこには油もガスも溜まらないということになります。こういうふうに地質構造の形成と油やガスの第二次移動の時期がぴったり合っていないと石油やガスは溜まらないということになるわけです。ですから油田、ガス田が出来ると言うのは偶然の機会に依存しているのです。我々は背斜構造やトラップを狙って掘るのですが、必ずしもそこに油やガスが溜まっているとは限らない。むしろ予想通り溜まっていることの方が珍しいのです。

 大事なのは根源岩や貯留岩や帽岩になるようなものが、その地方、これから探鉱しようとする場所にあるのかどうか、実際にその近くの山で確かめることです。そういう資料を色々研究した上で、よしここには石油がありそうだと結論づけるわけです。そのための地質調査、私たちが会社に入った頃はこのための山歩きばかりやって一年でだいたい120日くらい、そういう地表地質調査をやらされたわけです。

 私は当時北海道勤務だったものですから、北海道を全部合わせて620日くらい歩いていますね。それからインドネシアでは1年8ヶ月やりましたね。それからペルーのマチュピチなんかを越えたアマゾン川沿いのジャングルの中でやっぱり2ヶ月ほど地表地質調査をやっております。これは鉱床が存在するかどうかを推測するためのものです。

 昔は地表地質調査をやってそこのエリアに背斜構造があるか、実際に山に油徴といって深部から滲みだしてくる油があるかないかを調べていました。昔はそういうところばかりを狙って掘っていたのです。私が入社するころまではだいたい地表調査で背斜構造が確認されたところばかり掘ったのですね。ところがそういうのは世界中で掘りつくしてしまって、今は平野部と海くらいしか残っていないわけです。ところが地表調査をやっても、地層というものは水平方向に変化していくものなので、我々が掘ろうとしている平野部とか海の中にその地層があるかどうか、あってもその性質がどう変化しているかはそう簡単には分からんわけです。しかも平野や海ですから上に沖積層かなんかがあるわけで、下の構造なんて分かりっこないわけです。

 東シナ海問題で大騒ぎになっているときに、インターネットでブログやチャットサイトを色々調べてみましたが、その中にはアメリカでは宇宙観測をやってそれで世界中のトラップのありかが分かっているんだなどということを書いている人もいましたけれども、そんなことはないのです。衛星から分かることはせいぜい地下5mか10mまでなんです。地下3000mや5000mのことなんて分かる筈がないんです。この辺が一般の方は分かっていないんだなという想いを強くしましたね。

 それでは平野や海はどうするのか、これには物理探査と言う方法があります。大きく分けると磁力調査、重力調査、地震探鉱と三つあるのですが、磁力調査、重力調査ではごく大雑把なことしか分からないんです。例えば地下に火山性のものがあるとかとか基盤が浅いか深いかなどということが分かるだけで、ひとつひとつのトラップがどうなっているかなんていうことは分からないのです。トラップを摘出するのは地震探鉱というのをかけなくてはいけない。

第39図反射法地震探鉱の概念図  これは左図を見ていただくと分かると思います。これは古い教科書に載っているものでダイナマイトを震源にして地震を起すものです。せいぜい10mか20mくらいの井戸を掘る掘削機を持っていきまして、そこに孔を沢山掘るわけです。地上には地震波を測定するための受震機を並べておきまして、孔に入れたダイナマイトを順々に爆発させていくわけです。その振動が地下に伝わっていきます。地層と地層の境目は性質が変りますから、そこのところで地震波が反射して還って来るわけです。

 その到達時間を調べますと地層の構造が分かるのです。今はコンピュータの解析でずいぶん詳しい構造まで分かるようになってきています。 いまは震源としてはいちいち孔をあけてセットしないでも地震波を起せるバイブロサイスというものを陸上では使っています。これは油圧で重たい錘みたいなものを振動させてその振動を震源にするものです。これは自動車でどんどんいけますから非常に効率がよいのです。それから海では昔はダイナマイトでやったのですが、そうすると魚が死んでしまうので大変な漁業補償が必要になる。それで最近ではエアガンというものを使っております。これは圧縮空気を一気に開放してやるもので、この泡が生じるときの衝撃波を地震波として使おうというものです。これでも魚が死ぬと言う人がいるのですが、実験でやってみると殆んど大丈夫なんですね。これは船にGPS付きの沢山の受震機をとりつけた3000mくらいの長さのストリーマーというケーブルを複数本引っ張らせて、測定するのですが、これも定置網なんてあると切れてしまいますから、網を撤去してもらうための漁業補償が必要です。探鉱には測定費のほかにこうした色々なお金や交渉が必要なのです。

 そんなことでトラップの形が分かります。この断面から地層が出来てきたヒストリーを読み取らないといけないんです。それでタイミング良くこの構造には油がありそうだなと地質屋が思った場合に掘るわけです。

 ですが、地質屋というものはこういうデータを見ますとね、みんな掘りたくなっちゃうものなんです。掘ってみなければ絶対当たらない、宝くじを買わなければ当たらないのと同じ理屈ですから、やっぱり理屈をつけて掘ってみるということが多くなります。ですから石油開発会社の中では地質屋と井戸を掘る人とは仲が悪いわけです。井戸堀りに言わせれば、地質屋っていうのはマンガばかり描いて俺たちに、ないところばかり掘らせるということになります。実際は井戸を掘るというのは職人がやればいいのであって、石油開発会社というのは井戸を掘る場所を探し、油田やガス田を見つけ、生産する会社であって、井戸堀り職人を抱えている必要はありません。ですから昔は地質屋と井戸掘りは同じ会社にいたのですが、今は分業になって別な会社組織になっています。

 地震探鉱は一調査30平方kmくらいの調査で、まあ陸上だと10億円くらいはかかるのでしょうか。海のほうが能率がよいから割安になるかもしれません。いずれにしても何億というお金がかかります。次に井戸を掘るわけですが、これがまたものすごくお金がかかります。海洋掘削のリグのレンタルには今1日あたり20万ドルから40万ドルかかると言われています。3000mの井戸を掘るために50日はかかってしまいます。井戸を掘る機械を借りるだけが出費ではないですからね、その他資機材とかテストをするためのお金だとか色々かかるものですから、海で3000mくらいの井戸を試掘するためには40億円とかそのくらいかかってしまうのです。それで当たらないと全くどぶに棄てたと同じになってしまいますから、大変なリスクなんです。

 ですから我々石油会社が持っている一番の財産は何かと言うと、そういう地表調査をやったり物理探鉱をやったり井戸を試掘したりしたデータなんです。もちろん当たってそれが油田になればそれは財産ですが、探鉱のためのデータというのが基本的には大変な財産なのです。この認識がないと次の話がよく分からないということになります。

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3.東シナ海ガス田開発問題

講師の顔写真その2  東シナ海のガス田開発については40年位前まではずっと問題はなかったのです。問題が生じたのは1968年エカフェ(ECAFE)という国連の下部機関がアジア、極東地域の開発を進めようという国際プロジェクトを行ないまして、東シナ海には非常に大きな大陸棚があるので、なにかあるかもしれないということで調査をしたのです。海洋開発というのは世界的に見ても昭和35年(1960年)くらいから盛んになってきたのです。アメリカの技術者が中心になってやったのですが日本の専門家も船に乗っておりました。その結果「ここには非常に厚い堆積物があって、中東なみの油田、ガス田が眠っている可能性がある」という報告書を出したのです。で私どもの会社でも早速に尖閣列島の近くに鉱区を出願しましてね、他の会社も鉱区を出願したのです。ところがなかなかこっちの方まで手が回らないんですね。しかも中国との間で領海の境目についての合意がなかなか得られなかったこともありまして、手がつけられなかったわけです。中国側も勿論当時海で井戸を掘ると言うような力はとてもなかったわけで、またこの調査は自由世界側でやった調査ですから、中国側にはあまり詳しいデータは行ってなかったと思うのですが、この報告書は読んだかもしれません。

 私どもの会社も鉱区出願と同時に学術調査という名前でこの辺の調査をしたことがあります。私も昭和46年でしたか、尖閣列島まで行きまして魚釣島なんても見てきました。しかしいずれにしても中国側との折り合いがつかない、特に尖閣列島の所属というものがはっきりしないものですから、手をつけられなかったのです。

 ところが中国側は日本が主張しているところより中国側について、1980年台になってから外国の会社に石油開発権を与えるようになってきまして、どんどん試掘をするようになってきました。我々の会社も上海のちょっと南の海で鉱区をとり何本か井戸を掘りました。またこことは関係はないんですがもっと南の方、香港の沖にも鉱区をとって、私もそこに3年駐在して井戸を4本ばかり掘ってきました。中国側の領海ですね。その隣の鉱区では実際に油が出て、今はそれが日本に来ています。そういうなかで中国側はどんどん井戸を掘って日本が主張しているところに近いところまで井戸を掘って、ガス田を見つけ、そこにパイプラインを設置して陸上に持っていくようになったのです。今回問題になっている春暁ガス田については一昨年の春くらいから始めました。実際にはその前から採鉱作業はやっているわけですから、日本側としてもだいぶ注意を促してはいたらしいんですが、問題になったのはおととしの春です。

 ある大学教授が中国が日本の油をちゅうちゅうと吸い取っている。けしからん。こういう話を出したのです。それでもう国を挙げて大騒ぎになったわけです。問題の所在はどこにあるのか、2つほどあります。

 一つは日中の境界線はどこなのかという話です。国連海洋法条約というのがありまして、排他的経済水域(EEZ)ということが決められています。国の基線、海岸線といってもいいでしょうがそこから200海里、370kmくらいですね。ここまでは排他的経済水域として主張出来るというものです。ただし各国のEEZが重なり合う部分についてはどうしようということは海洋法条約でははっきり決めていないのです。まあ中間線をとるのが妥当というのに近い表現はありますけれど。

 その他にこの条約にはもうひとつ大陸棚という条項があります。大陸棚はその大陸棚に接する陸地を持っている国が所有を主張出来るというもので、大陸棚とは何かという話になってしまいます。下の図を見てください。

大陸棚の図

 大陸棚とは陸地に連続した浅い部分で大洋底の手前までということで、地形学上の定義とちょっと違うのが問題なのですね。図の上側を見て欲しいのですが、地形学上でいう大陸棚はせいぜい水深200から300mまでしかないんです。その先は斜面が急になりまして大陸斜面と地形学的には言っています。更にその先にコンチネンタルライズといって、ちょっとこの図面にしめしたような場所もあるわけです。一応このコンチネンタルライズの先、大洋底に沈みこむところまでを海洋法条約では大陸棚といって、そこまでは最大350海里まで主張してもいいということになっているわけです。これがEEZ(排他的経済水域)とどちらが優先するかということはどこにも書いてないんです。そこが問題なんです。下の図を見ると分かるように中国から日本側琉球列島への断面を作りますと、途中に沖縄トラフと言う一番深いところで2700mくらいの溝がある。日本側はEEZという観点からまず200海里までは主張したい。ところが中国側からの200海里というのもありますから、まあこの中間線をとるのが妥当ではないかというのが日本側の主張です。

 一方中国側に有利な見方では自分のところに接している大陸棚は地形学上の大陸棚を越えてこれでいうと大陸斜面になっている350海里まで主張出来るという定義があるのです。これによると中国側は大陸棚については350海里まで主張出来るということになっているのです。ところが中国側は350海里とは主張していません。中国側はこの地形学上でいう大陸棚の縁、沖縄トラフまで、そこまでが自分の権利だと言っているわけです。したがって中間線から沖縄トラフの線までがいま係争海域になっているのです。尖閣列島の所属は別です。この所属は海洋法条約とは関係ない話です。尖閣列島を中心にする半径200海里は列島が日本側の所属になれば日本の物ですし、中国側の所属になれば中国の領海になります。今回の話とは全く別の話です。

 あともう一つの問題は資源が吸い取られるかという問題です。さきほど申し上げたように石油が溜まっている地層と言うものはどこまでも延々と連なっているものではない。地層の中で切れてしまっているかもしれない。その状況を示したのがこの下の図なんです。

 下の図の縦真ん中に一点鎖線で書いてある直線、これを日中の中間線だと思ってください。もし図の一番上のような地層構造になっていると一番上の油やガスの層では流体である石油やガスは当然移動するわけですから取られてしまいますね。その下の層も日本側には少ししか入っていないけれど取るられることは取られてしまいます。三番目の地層なんては本体が日本側にどーんと広がっていますからこれは日本側がえらい損をしてしまいます。次の層は日本側まで延びていないから日本に被害は及ばないということです。一番下の層ですは井戸がありませんから取られる心配はありません。図の下側については各自お考え下さい。

東シナ海ガス田断面図  こういう観点で見ると吸い取られるかというと吸い取られるのが当たり前なのです。油は流体資源ですからしょうがないですね。

 それで日本側は何を要求しているかといいますと、日本側の資源を盗んでは困るから開発を中止しろと言っているのです。また地下で日本側の資源を取っている可能性が高いのだから日本側にこの資料を示しなさい。日本のものを採っているのなら当然日本側に補償をするべきだから、ともかく地下資料をよこしなさいと言っているわけです。これが正当であるかどうか?



それからこのガス田の開発を日本にもやらせろといっているようです。この主張が正当かどうかという問題もあります。

 まず開発を中止にしろというのはこれは無理だと思います。吸い取ってはいけないといっても、日本国内の法律を見ますと、鉱区境から100m離れれば井戸を掘ってもよい、つまり石油やガスをその井戸から生産してもよいということになっているのです。500mより深度の浅いものについてはもっと近づいてもよいことになっています。だから中国側から言わせれば、「日本には自分のところにそういう法律があるでしょう。今回のケースでは5kmも離れている」と言うんですね。5kmも離れているのだから、そこで油田、ガス田を開発してもかまわないではないか、とこういう話になっているわけです。採っちゃいかんというのはこれはちょっと日本側が無理な主張のように思いますね。但し傾斜堀というのがあって、今は井戸をまっすぐではなくて曲げて掘ることも出来るのです。それこそ10kmくらい曲げた井戸も掘れるのです。中国がそれだけの技術を持っているかどうかは別ですよ。もし曲げて日本側が主張しているエリアに掘り込んで採ったといえば具合は悪いですね。

 ですから5km離れていても心配は心配なのです。そういうことがあるかもしれないからデータをよこせと日本政府はいっているのかもしれません。ですがそうはいったって、井戸を曲げて掘っているかどうかなんて要するに井戸の中に測定器を下げて、その曲がりがどうなっているかを調べないと分からないのです。当然井戸を掘っている時には井戸の曲がりを測定しているわけですが、日本側がデータよこせなんていったって、そんなものはコンピュータの入力データをちょっと違えて出せば分からないんですね。出せといっても意味がないんです。

 データを開示しろなんていうのはどだい無理な注文なんですよ。さきほど申し上げましたように石油会社の一番の財産は地質資料なんですよ。こんなものをただ見せろ見せろといわれたって、「俺のところはおまえさんのところから盗み取っているわけでもなく、何で見せる必要があるんだ、見せろと言うのなら当然その対価をよこしなさい。」と言うことになるわけですね。この日本側の要求もちょっと無理がありますね。

 それから開発を一緒にやろうということ、これも自分で見つけて生産を始めたところに俺も入れてくれとおしかけてきたようなもので、はいはいと言っていれてくれるそんなお人よしは世界中探してもいませんよ。入れるんなら当然自分がそこの油田を見つけるまでの何倍かを報償として出してくれるのなら、やらせてあげてもいいよというところでしょうか。向こうがよっぽど金繰りに困っているならありうる話かもしれませんが、なんでわざわざ苦労して掘り当てた油田を他人にやらせますか。そういう意味で日本側の要求は全く無茶で常識はずれな要求だと思います。

 じゃ日本側も日本が主張しているエリアで自分で掘ればよいではないかとこういう話になるわけです。だけれど日本単独でこれをやろうとしますと日本側の主張では中間線までは権利があるんだけれど、中国側はもっと先の沖縄トラフまで権利を主張しているわけで、だからこそ日本側は今まで掘れなかったわけですよ。日本がこの係争領域で掘ろうとするとどうなるか?たぶん中国側は文句を言います。そういうことになると困るんで日本側は国会決議で自衛隊の護衛をつけて日本の会社に井戸を掘らせるようにしようじゃないかなんていう話が出ましてね。ここのところの鉱区を出願しているのは帝国石油なんですが、帝国石油に掘らせますとこういう話なんです。日本側が自衛隊つけて行って井戸を掘ったら、中国側だって人民解放軍の軍艦連れてきて井戸を掘らんとも限らないではないですか。そんなところに民間会社の人間がなんで行けますか?私が社長だったら絶対行かせませんね。ちゃんと平和的に掘れるようにするのが政府の責任で、けんか腰でやったって掘れるわけがない。

 だから日本が単独でやるというのは無理なのです。特に鉱区設定なんていって、紛争が始まって半年くらいで鉱業権を許可しました。出願しているだけでは井戸は掘れないんです。役所から許可が出ないと井戸は掘れません。でも許可されても会社は困るのですよね。試掘権を許可されますと期間が2年なのです。まあ色々条件があって3回だけ延長可能で8年間は保持可能なんですが、その間は当然お金を払わなくてはいけない。一本井戸を掘る金にくらべればわずかなお金ですが鉱区税を払わなくてはいけない。いつまでも鉱業権を持とうとするとこれは採掘権に変えないといけない。採掘権は無限です。これは鉱区税が高いのです。実際には行って掘るわけにはいかないのに鉱区税は払わなくていけない。許可された方も困っていると思います。

 そんなもろもろのことを考えるとこの係争海域での日本での単独開発は無理ではないかと私は思います。だいたいこんなことを言い出すのは、井戸によってしか石油、ガスが採取できないと言う常識がないからなんです。いくらここのところが俺の物だと言っても井戸を掘ってみて当たらなかったら、自分の石油、ガスにならないんです。その井戸が主張がぶつかりあって掘れない状況なんですから、これを乗り越える交渉が必要なのです。また井戸を掘っても当たらない可能性が大きい、不確実性という認識もないわけです。この広い係争海域の中に油やガスがあると思い込んでいるからこういう騒ぎになっているのであって、油やガスも溜まっていないかもしれないし、仮に溜まっていたとしても、油・ガス田の場所は広いエリアの中のほんのわずかに限られているのですから、少し井戸を掘っても当たらないかもしれないのです。

 だけどないかもしれないがあるかもしれない。もの凄いやつがあるかもしれない。でも掘らないと何も分からない。そして掘るには莫大なコストと時間がかかると言う認識は一般の方々も持つ必要があるのです。つまりいつまでも係争海域のままでほったらかしておくことは全く意味がないということです。

 そこで係争海域での共同開発という話が出てくるわけです。ところで日本では開発という言葉の意味が混乱して使われていることにご注意下さい。

石油産業構造図  左の図を見ていただきたいのですが、石油産業には上流部門と下流部門があって、上流に開発(Exploitation)と書いてありますね。英語で言うエクスプロイテーション、これは開発と訳すのです。このエクスプロイテーションのなかに何があるかというと、探鉱、地質調査から試掘までですね、それから井戸が見つかってそれを生産に結び付けるまでの作業これも開発と言っているのですが英語でいうとDevelopmentになります。日本ではエクスプロイテーションとデベロップメントを両方開発と言っています。さっき日本は中国に共同開発を申し込んだと言いましたね?。これは中国側でエクスプロイテーションが終わった場所で日本側はデベロップメントを一緒にやろうと言っているのです。一般的に共同開発と言いますと何をわれわれ石油人が思うかと言うと、エクスプロイテーションの方なんです。というのはエクスプロイテーションにはリスクがあるからです。デベロップメントの方はもう油田を見つけた後ですから、それはリスクはありますが、エクスプロイテーショに比べればお金が沢山借りられるくらいにリスクは小さいのです。ですから失敗の大きなリスクのあるエクスプロイテーションを一緒にやるのが共同開発というのが石油人では常識なのです。相手が見つけた油田を俺にも一緒にやらせろなんていうのは石油人の常識からは外れています。

 東シナ海ではもし日本側が日本が主張しているエリアで石油・ガスを欲しいのならば中国側と共同開発、即ち共同エクスプロイテーションをしなければ駄目だと私は思います。先方は絶対譲らないわけですからね。

 境界線が問題なんだからそれを国際裁判所に出して決めてもらったらどうかという議論もあります。これは場合によると日本側は元も子も無くしてしまう可能性だってあるわけです。裁判でこれは中国の言い分が正しいなんて言われたら、日本側は全く採れなくなってしまうわけです。これは危険であると私は思います。それと先ほど言いましたように石油と言うものは掘ってみないと分からないんですから、ないかもしれない井戸にもの凄い金をかけるリスクを分散させるためにも共同開発はいいのです。取り分は半分になるかもしれないけれど、リスク、即ち損する可能性が低くなるではないですか。それから二人で一緒にやれば時間が短縮出来るわけです。それからこの海域というのは中国側が今まで見つけたのを見ても見つかるものは油田ではなくてガス田の可能性が高いのです。

 ガスがこんなところで出たって、深い沖縄トラフを越えて沖縄までパイプを引っ張ってきて、そこで消費しましょうなんていってもそんなでかい市場は沖縄にはないんです。九州まで持っていくのはもっと大変です。中国にはもう既設のパイプラインがありますから、これを利用して中国側へ持っていって売った方が有利なのです。ところが中国のガス価は日本の五分の一くらいなのでしょうから、よっぽどでかいものが見つからないと日本にとってはあまり得ではないんですよね。ちょと場所的にはやりにくいなというのが我々の実感ですね。

 今のところ中国側で開発されたものはガス田ばかりですが、未開発の日本側主張鉱区には石油があるかもしれない、それもアラビアなみの大油田がないとは限らないという見方もできます。それでは中国側と一緒にやりましょうかという話になる。そこで日本側は何を言っているかというと、共同エクスプロイテーションを日本側でやるのはいいけれどバランスをとるために中間線から中国側についても一緒に含めてやりましょうねという話を出しているらしいのです。ところが中間線から日本側というのは今まで一本も井戸を掘っていないのに対し、中国側の海域は外国の会社にもやらせて今までずいぶん沢山の井戸を掘っている。ということは日本側の鉱区には当たりくじが一杯入っているかもしれない。中国側鉱区は当たりくじが出たあとのかすかもしれない。これを一緒にやろうと言うことはどういうことかというと、日本側は海老が欲しい。鯛をやるから海老の分け前を日本にも寄こせと言うようなものです。中国側はそれは海老のわけまえをやってもいいけれどその代わり鯛の分け前を少し余分にしてねと言うことになるのではないでしょうか?

 こういうことに日本側も多分気がついたんでしょうね。それでまあごちゃごちゃ言えば中国側はともかく中間線から日本側には来ないだろうということで、今平静を保っているのではないかなと私は思っているのです。今日はこのへんのところで勘弁していただけたらとおもいますが。(拍手

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4.質疑応答

著書中国の表紙 質問:今日本で石油が一番出ている油田はどこにありますか? 新潟県ですか?
答え:違うんですよ。北海道です。北海道の苫小牧にある勇払油田が日本最大の油田です。
 油の量が年産で30万klくらい出ているんです。これはバレル換算で180万バレルくらいになります。これは石油資源開発が持っているのですが、私が札幌の所長に就任した時がちょうど一号井が当たった直後で、その後の開発は私が所長時代に担当しました。

質問:日本で今海で生産している油田はいくつあるのですか?
答え:三つあったのですが、石油資源開発と出光が共同でやっていた一つと出光単独でやっていた一つは枯渇してしまって、今は石油資源開発が見つけた岩船沖だけですね。
 その他帝国石油がエクソンと一緒に見つけた福島県いわき沖というガス田があります。

質問:日本は石油が採れないと思っていたのですが結構採れるのですか?
答え:いやそれは少ないです。日本は沢山使いますからね。自給率は油が0.1%くらいですから。ガスだとだいたい4%弱です。日本にはパイプライン網が出来ていませんから96%はLNGで海外から船で持ってきているわけです。
終わり
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文責:臼井 良雄
会場写真撮影:橋本 曜 HTML制作:大野 令治

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